第20章 柱稽古とお館様
一時更紗から温かさが離れたが暫くすると再び温かさが更紗を包み込み、浮遊感と心地よい振動でゆっくりと赫い瞳が顔を覗かせた。
「やっぱり杏寿郎君の腕の中だった。フフッ、いい匂い」
起き抜け早々まだまだ覚醒していないのか、杏寿郎の胸元に頬を擦り寄せて存分に甘えている。
もちろん杏寿郎はそれを笑顔で愛でているのだが、どうも笑いを堪えているようだ。
「今日はえらく甘えただな!人前で更紗が甘えてくるなど初めてではないか?」
「……人……前。人前?え?」
随分と軽くなった体を捻り杏寿郎の肩口から後ろを恐る恐る覗き込むと、特に興味を示していない義勇と様々な反応を示している剣士たちの姿が見えた。
「先ほど稽古が終わって屋敷へ帰っている途中だ!更紗があまりに気持ち良さそうだったので、全員の総意で起こさないことに決まったんだ!」
そろそろと肩口から顔を下ろし、今度はいつも通り真っ赤にした顔を手で覆い隠し縮こまってしまった。
「記憶から消してください。ついさっきのことはなかったことに」
「……ならない」
なんと杏寿郎ではなく義勇がなんの悪気もなく更紗にトドメを刺し、更紗と義勇以外の笑い声が響いた。
厳しい稽古の合間の少し穏やかな一幕。