第20章 柱稽古とお館様
すぐに返事をしたくても先ほど発した言葉が体に残っていた最後の気力だったらしく、更紗は口すら思うように動かせずにいた。
そんな自分の体なのにそうでないような不快感に瞼をきゅっと閉じると、杏寿郎の温かさも相まって体が休息を欲して重くなり意識も遠のいていく感覚に陥る。
(眠いです。体も動かないし……治癒したらどうにかなるでしょうか?)
半ば朦朧とする意識を掻き集め治癒を施そうと試みるが、なかなか上手くいかず粒子が空中のあちこちに球状になって散らばっている。
「なんとも綺麗な光景だが、今能力は使わない方がよさそうだな。木陰に運んでやるからそこで少し眠っているといい」
優しい声はまるで子守唄のようで、どんどんと更紗を眠りに誘っていく。
どうにか残った力と気力を使い杏寿郎の手を握った。
「帰る時……起こしてね。絶対……置いていかないで」
その言葉を最後に更紗は完全に意識を手放し夢の世界へと旅立ってしまったが、残された杏寿郎は義勇と圭太と顔を見合わせて苦笑いを零していた。
「言っておくが今まで放って帰ったことはないぞ。更紗は弱っている時、先ほどのように幼い言葉で甘えてくるのだ」
なんとも不思議な特性を持つ少女は杏寿郎の気も知らぬまま、気持ちよさげに穏やかな寝息を立てている。