第20章 柱稽古とお館様
「元々私は足が速くないので、これで……ようやく勝負になる速さしか……ありません」
更紗から発せられる言葉が流暢ではなくなった。
それだけでも嘘を言っていないと分かったが、圭太が横目で確認した更紗の表情は苦しそうで、自分と同じ状態なのだと確信が持てた。
限界が近い2人が追い越し追い越されを続けること数分、辺りの木々が疎らになり、その木々の合間から杏寿郎と義勇の姿が見えだした。
まだ表情までは確認出来ないが、なんとく雰囲気から心配げに見守っているように感じた更紗は、その憂いを早く晴らしたいと強く思い……知らず知らずの間に速度を上げていく。
「どこに……そんな体力残ってたんだよ」
半ば呆れ気味の圭太の声にも返事を返せないほど、更紗はただひたすら前を見据えて圭太を追い越し、やはり心配そうに眉をひそめていた杏寿郎の元へと一直線に進んでいった。
「2人とも頑張れ!あと少しだ!」
声が更紗の耳に届いた時には既に杏寿郎の目の前に体は到達しており、走ってきた勢いそのままに待っていてくれていた杏寿郎の腕の中へと飛び込んだ。
「ただ今……戻りました。1番に……戻りました」
息もままならず崩れ落ちそうな更紗の体を支えるように抱きすくめ、杏寿郎は汗で濡れた髪を優しく撫でる。
「あぁ、よくやった。合格だ」
何より嬉しい言葉を耳にした更紗は安堵や疲れから、身体中の力が抜け落ちた。