第20章 柱稽古とお館様
「嘘……速い!圭太さん!こちらに向かう前に師範に何か言われましたか?!」
「なんで……そんな流暢に喋れるんだ?!こっちは……余裕ないってのに!……言われたよ!絶対月神を追い越させるな、気合いを見せろって!」
やはり屋敷を出る前の耳打ちは更紗に更なる試練を与えるための言葉だった。
簡単には合格を渡さないという強い意志が感じ取れる。
「余裕ではありません!私はこの稽古で絶対に1番にならなくてはいけないんです!心身共に余裕なんて全くありません!」
「それだけ喋られたら……十分だろ!悪いけど俺、話す余裕もうない……負けたくないし」
負けたくないのは更紗も一緒だ。
しかも自分の行先がこの稽古にかかっているのだ、何がなんでも圭太より前にいかなくてはいけない。
「それは私だって同じですよ」
小さく呟いた後、更紗は大きく息を吸い込み肺から血中に多くの酸素を送り込むと、更に痣を濃くして身体能力の向上を敢行した。
「反則だろ!俺……痣出てないのに!」
横に更紗に並ばれた時、圭太の肺や喉、体は既に限界が近く速度が徐々に落ちていっている。
しかし更紗とて無限に動ける状態にはしていないので、身体中が悲鳴を上げ倒れ込みたくなるのを必死に堪えている。