第20章 柱稽古とお館様
半分を過ぎる頃にはほぼ全員を追い越した。
地獄の筋力強化稽古の後の山での走り込みは剣士たちにとって過酷なものだろうが、更紗にとっては慣れた山である。
と言っても自然がそのまま残されている山中は日々形を変えるので、天然の障害物は更紗にも馴染みがないものが多かった。
「あと1人……圭太さんだけ。後ろ姿さえ見えないということは、まだ距離がありますよね。そろそろ姿だけでも確認しないと危ないかも……」
それもそのはず、圭太は誰よりも早く基礎の稽古を終わらせ山へと入っていったのだ。
しかも屋敷を出る前に杏寿郎から耳打ちされていたので、一筋縄ではいかない可能性が非常に高い。
それらを知っている更紗は走る速度を上げて、圭太の姿を探す。
そのまま数分が過ぎ、漸く豆粒くらいの大きさではあるが木々で見え隠れする圭太の後ろ姿を更紗の瞳に映した。
「見つけました!早く追い越さないと」
追い越さないといけない相手は痣者ではないので、姿さえ確認出来ればその背に追いつくことは容易かったのだが……
背後に更紗が追い付いてきたと気配や音で感じ取るや否や、圭太はそれこそ最後の力と言わんばかりに一気に速度を上げた。