第20章 柱稽古とお館様
見慣れた庭を進み道場へ義勇と共に辿り着くと、開け放たれた入口から中を覗き込む。
するとこちらを背に剣士たちの指導に勤しむ、炎を模した羽織姿の杏寿郎が仁王立ちで佇んでいた。
今日も元気に声を張り上げており何よりだ。
「師範、ただ今戻りました。冨岡様もいらっしゃいましたよ」
稽古の邪魔にならないよう控えめに声を掛けたが杏寿郎の耳にはしっかり届いたらしく、勢いよく振り返ってきた。
「お帰り、更紗。期限より早く戻れたのだな!感心だ!冨岡もよく来てくれた!俺はもう暫く後輩たちの稽古があるので、2人共屋敷の中で待っていてくれ!」
水柱と少女剣士の来訪に稽古も中断されると思っていたのか、もう暫く稽古が続を続けると杏寿郎の口から出たことにより、素振りをしている剣士たちの表情が絶望に染まった。
何名かは更紗が杏寿郎の継子だと認知しているようで、更紗へと助けを求める視線を送ってきている。
稽古に口出し出来る立場ではないが……夕刻も近付いていることを理由に打診してみることにした。
「もうあと一刻ほどで日が暮れてしまいます。冨岡様との手合わせの準備は如何致しますか?」