第20章 柱稽古とお館様
義勇は首を傾げているが心の中を読めない更紗は冷や汗を流しながら手をずっと後ろに隠したまま。
しばらく両者1歩も動かず膠着状態が続き、ふと冷静になった更紗は今の自分の柱からの立場を考えてみた。
柱全員から力量を試されている現状で、たかが目玉如きに師範である杏寿郎や他の柱の許可を得ず、戦力の1人として数えられている人間の腕を勝手に切り落とすなどするはずがない。
となるといつもの如く義勇の言葉が足りないだけなのでは……と。
「もしかして……手の中の目を斬る……ということでしょうか?」
「そう言っている」
(言ってないー!手を斬るだけしか聞こえませんでした!ですが冨岡様の優しさを無碍になど出来るはずもありません!)
心の中を悟られないようニコリと微笑み、更紗は右手を握り締めたまま巻き付けてある手拭いをゆっくり解き、義勇の前へと差し出した。
「勘違いをしてしまい申し訳ございません。お手間を取らせますが、よろしくお願いします……手を開く時に合図は必要ですか?」
「勘違い?……よく分からんが合図は必要ない。開いてくれ」
なぜ更紗が勘違いをしたのか分からない義勇の指示通り未だにヌメヌメと不快な感触を残す右手を一気に開くと、瞬きをする間もなく横に日輪刀が薙がれ、ようやく目玉は更紗の手の中から塵となって消えていった。