第20章 柱稽古とお館様
そうして更紗は自分で空中へと放り投げた木刀を利き手で掴み、床に足が着くか着かないかのところで義勇の首元へとそれを持っていくが、そう簡単にことは運ばなかった。
稽古に取り入れるだけのことはある。
一瞬の出来事だったが、確かに更紗の映った。
水が流れるようにその場から移動してみせた義勇の姿が。
「惜しかったな」
その声が更紗の耳に届いた時には手首を捕まれ、背中を床に叩きつけられていた。
「いっ……た……くないです!」
叩き付けられた音だけで容易に痛みを感じ取れたが、そこは更紗持ち前の治癒能力の出番である。
痛みを感じた箇所をすぐに治し、柱に対して申し訳ないと思いつつ全力で脇腹を足で蹴りつけた。
「簡単に降参は出来ません!なんせ冨岡様と師範を失望させるわけには参りませんから」
「そうか、では続けるぞ」
脇腹を軽くさするだけで義勇にこれといった損傷は見受けられない。
こうして別次元の稽古は継続されたものの、もう互いに脚捌きがどうとかではなく相手をどのように打ち負かすかだけしか頭にない。
しかも稽古途中に義勇の頬に流水紋のような痣が発現したものだから、稽古という名の打ち合いは熾烈を極めていった。