第20章 柱稽古とお館様
翌朝、更紗が稽古に勤しみ始めた頃、杏寿郎は突然の来客の対応をしていた。
「君は相変わらず突然現れるな!宇髄!」
「元忍だからな!それより何だ?姫さんの二つ名、仏と思しき阿修羅って……姫さん知ってんのか?」
天元を迎えた笑顔のまま杏寿郎が固まってしまった。
柱の間で二つ名は共有されており、更紗の耳に一切入らないように配慮されているのでもちろん杏寿郎の耳にも届いていた。
まさか自分の継子兼婚約者が阿修羅などと言われているなど夢にも思わなかっていなかった杏寿郎は、初めて聞いた時は耳を疑った。
「あの子のどこを見て阿修羅と言うのか……ただひたむきに頑張っているだけなのだが。それについていけない剣士が多いのだろうな……今はまだ更紗の耳には入っていないが、時間の問題のような気もする!」
人の口に戸は立てられないと言う言葉がある通り、1度人の口から発生した噂はもの凄い勢いで拡がってしまう。
はたの者がいくら懸命に噂が広がるのを阻止しようとしてもそれにも限界がある……つまり更紗が涙を流す日も近いということだ。
「いやまぁ、戦闘中は普段と雰囲気変わるから言ってることは分からんでもないが、女相手に阿修羅はねぇわ」