第20章 柱稽古とお館様
翌朝、更紗は行冥へと宣言した通り岩を一町先まで動かすことに成功した。
反復作業でお経も効果があったが、更紗の場合は大切な人の姿を繰り返し思い描くことが1番効果的だった。
失ってしまった人、失いたくない人を思い描くと自ずと自身がしなくてはならないことが明確になり、体が反応したからかもしれない。
行冥や稽古を共にした剣士たちに礼を告げて山を下りていると、慌てた様子の杏寿郎の鎹鴉、要が更紗の前へ姿を見せ腕を出せと言わんばかりにバッサバッサと羽ばたいている。
その要望に応え腕を差し出し胸の中へ誘うと、ホッと息をついて杏寿郎そっくりの言葉が黒い嘴から溢れ出てきた。
「ブジナノカ?!キミガオニヲミツケタトキキ、シンパイデショクジガノドヲトオラナカッタ!トノコトダ!ミタトコロブジノヨウダナ!」
どうやら杏寿郎が更紗を心配して要を飛ばしてくれたらしい。
だが朝一番に更紗も杏寿郎の元へ神久夜に遣いを頼んだので、神久夜が到着する前に要を飛ばしてくれたことになる。
「私は無事ですよ。その様子だと杏寿郎君もご無事なのですね。きっと今頃は神久夜さんから私が無事なことを伺ってくださっているはず……要さん、しばらく休憩しましたら杏寿郎君へ言伝を頼まれてくださいますか?」