第20章 柱稽古とお館様
何はともあれ落ち着きを取り戻した更紗は居間で行冥と向かい合い、先ほど目にしたものを可能な限り詳細に伝える。
その間、行冥は言葉を挟むのではなく相打ちを打って静かに聞いてくれていた。
10分ほど時間が経過し更紗がようやく全てを話終えると、行冥は深刻な面持ちで1度頷く。
「話は分かった。すぐにこの件はお館様へお伝えする。月神、君は可能な限り早くここでの稽古を済ませて山を下りなさい。山は気候が変化しやすい……突如太陽の光が遮られ暗くなることもあるからな」
鬼が偵察を行っていると思われる現在、更紗の存在が鬼に知られる事態を可能な限り回避しなくてはならない。
総力戦が近付いている今、更紗や煉獄家に身を置いている禰豆子が攫われてしまっては戦況が悪い方向へ傾くことが懸念されるからだ。
ここ最近は鬼がなりを潜めていたので忘れていたが、更紗は自分の置かれている状況を思い出した。
それが自分だけでならまだしも、これから剣士たちが自分と同じように行動を制限されるかもしれないと思うと胸がチクリと痛んだ。
「何から何まで手を差し伸べていただきありがとうございます。稽古は……明日の朝には突破出来ると思いますので、昼頃にはここを出立し無一郎さんのお屋敷へ移動します」
胸の痛みを悟られないよう笑顔を向けるが、心を読むことに長けている行冥の目からは涙が流れた。