第16章 チョコばらまく日
『おし』
気がつけば2月中旬、バレンタイン前日の夜
夕飯を食べ終えたあたしは今頃女の子達は一生懸命作ってるのかと、同志の事を考えながらチョコを溶かし始める
お湯の温度に気を付けながら溶かしていると玄関から誰かの足音が聞こえてきた
予想はできたが振り返ると雪さんが仕事終わりとは思えないほど楽しそうな表情でこちらに来る
「名前ちゃん、バレンタインのチョコ作ってるの?」
『出来たら後で食べますか?』
「もちろん!雨さんの分も取っておかなくちゃ!」
『数に入れてるので大丈夫です』
「ちなみに好きな人にはあげないの?」
『…そもそも好きな人がいないので』
雪さんってこういう所はあたしより女子中高生らしいと、段々溶けていくチョコレートを見ながら思った
彼女は隣に立って同じくチョコレートが溶けていくのを眺めている
「征十郎君には毎年あげてるでしょ」
『やり始めたの雪さんですよね?』
「よく話題に出てくるバスケ部の子にはあげないの?」
『まあ…義理チョコを』
いつかのバレンタイン前日、有休をとり当時小学生だったあたしと一緒にノリノリでチョコを作ったことは去年までの出来事
今年はどうかと思っていたが仕事が休みじゃないあたり解放されたようだ。けれど友チョコ交換などを考えると作っておいたほうがいい気がする
雪さんはあらかじめ作っておいた料理を温めリビングに向かったので、そのまま1人生地を混ぜ型に入れ焼く作業を繰り返した