第13章 寝過ごしの彼に××を/銀時(銀魂)
「ムカツクなーコイツ」
知ってるようで知らないことばっか。
触れてるようで全然触れてなくて。
近くにいるのに……遠い人。
ピシッと一発でこピンをくらわしてやれば微かに寄る眉間の皺。
おーおーそのまま起きちまえ。じゃないと。
……じゃないと。
「キスするぞ、馬鹿」
これで、何かしら反応してくれたらよかったのに。聞こえてくるのは規則正しい寝息だけ。もう忠告はしたからな。
私は少しずつ銀さんに顔を近付けていく。
起きない銀さんが悪いんだ。私が銀さんのことを好きなのを知らないで、無防備に寝てるのが悪いんだ。
後少し。後少し。後少し。
息遣いが分かる程に近付いた顔。それでも銀さんは起きる様子がない。
光源のない暗い部屋。外もとっぷり暮れている。
ただただ、私と銀さんの呼吸音だけが聞こえていた。
「…………何やってんだ私」
本当に、後1cmというところで屈めていた体を元に戻し、大きく息を吐き出した。
長く重たい息を吐ききって、未だに起きる様子がさっぱりない銀さんを見下ろす。
(銀さんが寝てる時にしたってなー……)
もう一つため息を吐いて私は玄関に向かうべく踵を返す。眉間に皺が寄るのは自己嫌悪の印。
何やってんだよ本当。馬鹿だ。私は馬鹿だ。大馬鹿野郎だ。
こんなことしたって、なんの意味もないのに。
むなしくなる、だけなのに。
「……ごめんね、銀さん。飲みに行くのはまた今度ってことで」
ぽつりと、そうひとりごちて玄関に向かった。
今日はもう一緒に飲みに行けそうにないや。また機会があったら、今度こそ引きずってでも一緒に飲みに行ってやろう。
私は万事屋を出る。もう春だってのに、真っ暗な外の空気は冷たくて。
ちかちかと瞬く星を見ていたらなんだか無性に目頭が熱くなった。
寝過ごしの彼に××を
(一人夜道を歩く私は知らなかった)
(銀さんが狸寝入りしてたことも、その顔が赤くなっていたことも、私がいなくなったあと一人悶絶していたことも)
(なんにも、知らなかった)