第1章 俺が彼女を好きになる迄の話。
「そしたら悲鳴嶼さんたら、滝みたいに涙を流しながら、私の事……折れそうな位抱きしめくれてね。」
真っ直ぐ前を見ながらそう呟いた横顔は不謹慎だと分かっていてもとても綺麗で、俺はまた喉から手が出そうになって、とても腹が減った。
「ソレがとーっても暖かくって。…私、生きないといけないって。何故かそんな風に思ったの。」
「……だから、雨の日に逢いに行くのか。」
成程、その時を思い出して甘えたくなるのだろうか。そんな事を思い素直に問いかけたら、は自信なさげに下を向いてか細い声を出した。
「うん、死にたくなるから。…会いに行くの。」
いつも明るいがのこんな顔は初めて見た。消えそうな、不安そうな…そんな顔が見ていられなくて、俺が手を握ると、一瞬目を見開いたはほんのりと微笑んで言葉を続けた。
「私、時々…鬼を狩ってても色々考えちゃって。
この背丈、煉獄さんとこの弟さん位だ、とか。
ちょうど、しのぶの背と同じ…とかさ。」
__ポツリポツリ。と小雨の様に呟く声は、とても苦しそうだったが、それでいてとても優しかった。
「それがね、雨の日にブワッで押し寄せるの。それで、もう辞めたいって。死にたいってなるから。
…あの日みたいにまた、生きなきゃって思わせて欲しくて。夜な夜な、悲鳴嶼さんに会いに行くの。」
何となく、この2人の関係は恋仲とかそういうものでは無いのだと、何故か直ぐに分かった。
「…暖かくって硬い腕の中で、雨音を聞くとね。
この人を守りたいってそう思うんだよ、私。」
ただ、にとっての悲鳴嶼さんは、命に変えても守りたい人なんだと、ソレもよく分かった。