第1章 俺が彼女を好きになる迄の話。
「ほら、食べないの?」
「食べるよ、ありがとう。」
俺はぶっきらぼうにお礼を言って、真っ二つに割れた西瓜を受け取った。もっと愛想良く出来たら…。そんな事を思いながらも__シャクッ。と、匙が西瓜にくい込むと、それが心地よくて自然と口元が緩んだ。
「は、そんだけか?」
俺のは丸々半分だが、が持っているのは1切れで、残りも器用に3角に切られている。きっと悲鳴嶼さんにでもあげるつもりなのだろう。
「私はコレで良い。お腹ちゃぷちゃぷするから。」
そう言って3角の先っぽに小さな口を持っていく。
「……………ちぃせぇ口だなぁ。」
「そりゃ、玄弥君に比べたら小さいよ。」
目を三日月型に歪ませてそう言ってから、は__フッ。と西瓜の種を中庭に飛ばした。
「小さい頃さ…。」「うん。」
「西瓜の種食うと臍から芽が出るって兄ちゃんに嘘つかれて、俺…ずっとそれ信じてたんだよ。」
「ふっ、ふふっ、可愛い。」
「だからこの前、炭治郎達と西瓜食った時、伊之助が種までボリボリ食うから、種は食っちゃダメだって怒ったら、凄い笑われてさぁ…。」
そんな下らない話をしたらが、今まで聞いた事が無いくらい優しい声で俺に呟いた。
「お兄ちゃん、いぢわるなんだね。」
縁側に手を着いて、足をプラプラさせながら小首を傾げて問いかける姿に、異様な程目を奪われた。
「あぁ、兄ちゃんはさ……。いぢわるだ。」
本当は優しい人だ。なんて言わなくてもには伝わるし、きっと絶対分かっているから。
俺は照れ隠しにそう返事をした。