第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
そんなことは、わざわざ言われなくても分かっている。でも、人はそんな簡単には変われないのだ。
私は彼女を追いかけるのをやめ、ふらふらと隅に向かって歩き出す。いつまでも、こんな煌びやかな場所の中心にいたくなかったから。
そんな私の後を、彼は無言でついてきた。
『…すみません、余計な事をしてしまいました』
「べつに、もういいんです。
ただ、貴方には私の気持ちは分からない。私には、彼女しかいなかったのに」
『あの…いくらでも、謝るので…どうか、泣き止んでくれませんか』
彼が、困ったようにハンカチを差し出す。それを見て、私は初めて自分が泣いている事実に気がついた。
気が付いたからといって、ポロポロと目から溢れる涙は止められない。
とにかく私は 彼からそれを受け取り、眼鏡を上げて強く目にあてる。すると、涙と一緒に嗚咽も堰を切ったみたいに溢れ出した。
「ぅ……っ、明日から私は、1人ぼっち」
『はい…』
「友達のふり、してくれるだけだって、良かったのに!」
『…はい』
泣き続ける私を壁側に立たせて、自分の胸で隠してくれる。私は彼が用意してくれたその影で、思いっきり、遠慮する事なく泣き続けた。
大音量で鳴り響くクラブミュージックも、今はなんだか遠い世界のBGMのように聞こえる。
目がチカチカするから 好きではない激しいビームライトも、彼のおかげで気にならない。
自分が泣いてるのも忘れてしまいそうになるくらい、彼の側は幸せが溢れていた。