第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
どうして、腕をとられているのか。理解が出来なかった。
ぽかん とただ彼を見上げる。
「あっ…こ、この子 用事があるって言ってたから もう帰らなくちゃいけないんですよ!
だから、ここからは私と2人で」
『あの、何か勘違いなさっているようですけど…。
私が素敵だと感じた女性は 貴女ではなく、こちらの彼女ですよ』
カァァと、顔が熱くなるのを感じた。顔だけではなく、全身の熱が上がってしまったみたいで。
彼に掴まれた腕から、それが伝わってしまうのではないかと 心配になる。
「な…っ、な!
なんて失礼な男!!」
彼女はハンドバッグを振り上げて、彼の顔目掛けて殴りかかった。
危ない!と、言う間もなくバッグは振り下ろされる。しかし彼はそれを 危なげなく、ひょいと避けた。
よほど悔しかったのか、彼女はまたカバンを使っての攻撃を試みる。しかし、3度目も4度目も結果は同じだった。
怒りからか、はたまた疲労からか。肩でハァハァと息をする友達に、王子は笑顔で言った。
『さようなら』
彼が言うか早いか、彼女は顔を真っ赤にして、この場を後にした。
最後の最後に、私をしっかりと睨み付けて。
『…凄い形相でしたね』鬼みたい
私は、彼に掴まれた腕を大きく払いのけ、彼女の後を追おうと走り出す。
しかし、彼はまた私の腕を引いた。
堪らず私は声を荒げてしまう。
「は、離して!早く追いかけないと!」
『追ってどうするんですか』
「どう…って、謝らなきゃ、早く」
『追いかけて、謝って。それから先は?
貴女から変わらないと、周りの状況は 変わってはくれないのですよ』