第29章 《閑話》とあるアイドルプロデューサーの休日
「げ!」
「う、烏龍王子…っ」
「えっ、え?きゃっ、これ一体どういう展開」
『私との約束が、先でした…よね?』
「はい……♡」
彼が友達に言うと、彼女は目をハートにして即答した。それを見た男達は、捨て台詞を言う間も惜しんで、脱兎の如く逃げ出した。
「…………」
(どういうつもりだろう…)
『すみません、お邪魔してしまいましたか』
烏龍王子は、敬語キャラだったのか。
というか 彼が誰かと会話するシーンなど、皆 今この瞬間初めて目の当たりにしたのではないだろうか?
孤高の王子が初めて、群衆の元に降りて来た。そんな感じだ。
周りの女性陣の視線が、突き刺さるように痛い。
しかしそんな空気は何のその。彼女はいつもの調子で猫撫で声を出す。
「そんな事、ぜーんぜんないですよぅ!あんなの相手にしませんて!」
『…実は隣から、ずっとこちらのテーブルを見ていたんです』
「え、それって…」
『素敵な女性だなと、思って』
「〜〜〜っ、」
『誰かに横取りされては堪らないと、つい声をかけてしまいました』
結局は、王子も男だったというわけだ。それも、とびきり馬鹿な男。
中身どうこうよりも、外見で女を選ぶ。分かっていたつもりだったのに、なんだか裏切られた気分だ。
私は、無意識に期待してしまっていたのだろうか?
彼の、澄んだ瞳に。
こんな綺麗な目をした人は、きっと心まで美しいのかも…
なんて。一瞬でも思ってしまった自分が情けない。
そんな時だ。私の携帯が震える。
手にとって画面を開くと、相手は今 目の前にいる友達からだった。
《 王子と2人にしてくれる? 》
…要は、帰れ。という事だろう。
彼が自分に気があると分かったのだから、むしろこう思うのが自然かもしれない。引き立て役はお払い箱というわけだ。
もはや、笑いすら込み上げてくる。
しかしちょうど良かったのかも。私もこれ以上ここに居たくなかったので、このまま黙って居なくなろう。
きっと、私が消えたところで 誰も気付かない。
さよならも告げずに、私はその場をそっと離れようとした。しかし、私の腕を誰かが掴んだ。
「え?」
掴まれた腕から、相手を辿るように顔を上げると…
そこには、美しい顔があった。