第1章 花信風 滝澤 /平子
私は生き残った。
目を覚ますのに、1ヶ月かかったそうだ。
一人だけ生き残った私にみんなどういう顔をしたらいいかわからないようだった。
亜門上等と、政道さんは殉職したと聞いた。
だけど、2人の遺体は見つからず、救助が来た時は私だけが取り残されていたと。
何で私だけ生き残ってしまったのか。
私は、政道さんと、亜門上等はあの喰種が連れ去ったと確信している。
あの喰種たちが2人を食べるとは考えにくい、私だけを置いて行ったのは何か理由があるはずだと。
真戸先輩は毎日お見舞いに来て下さった。
あなたも辛いのに…
そう思う気持ちもあるし、滝澤先輩をあの時止めてくれていたらなんて思う気持ちもあるし…、私は真戸先輩に何も言えなかった。
篠原特等も植物状態であること、什造先輩も右脚を失ってしまったこと。
梟討伐戦で失ったものはあまりにも大きかった。
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あれから2年の時が経った。
真戸先輩は上等捜査官になり、金木研…改め佐々木琲世一等がメンターとなり半喰種のクインクス班を率いている。
私は今鈴屋班に所属している。
今日は琲世一等率いるクインクス班との合同捜査会議。
「~、ぼくはもう少しゆっくりしてから行くです~」
「ダメですよ!もう少しだけ遅刻してるんですからね!」
「琲世は遅刻しても怒らないですよ~」
「什造先輩そういうことじゃないんですよ〜、もう!今一緒に来たら先輩にこれをあげますよ!」
「!!!手作りですか~?」
「ふふ、はい!」
「じゃあ、手を引っ張ってくださ~い」
「ふふ、阿原くんにまたヤキモチ妬かれますね~」
手を繋ぎながら什造先輩を連れて会議室へ向かう。