第1章 花信風 滝澤 /平子
恥ずかしくて壁に顔を向けてみた。
先輩のいる方とは反対だ。
ぎしってベッドが揺れて、その揺れにさえドキドキしてる。
布の擦れる音にもビクッって身体が反応する。
心臓壊れちゃうんじゃないかな…って思ってたらふわって後ろから抱きしめられた。
「せんぱい、?」
「ん?」
「…ドキドキしてます」
「知ってます、俺もドキドキしてる」
そう言われたら少しびっくりして、先輩の方に顔を向けた。
月明かりが先輩の顔を照らしてて、すごく綺麗だった。
「がさ、いっつも俺を俺でいさせてくれるんだよ」
「私が…?」
「うん、お前が隣にいてくれたら俺すごい頑張れる気がする」
「…」
「まあ、真戸が同じチームにいるから俺はあいつには届かないかもしんないけど、越えたいって思ってる…」
「…先輩は先輩のペースで、私は先輩の力になれるように頑張る」
先輩はくすって笑うと
「ありがとうな」
って、言いながら私のおでこにキスをした。
うっとりと先輩のことを見つめたら先輩は少し笑って優しく唇が重なった。
「おやすみ、」
その夜は悪夢を見ずに、先輩の匂いがいっぱいの中で先輩の温もりを感じながら寝た。
私は、幸せだった。
この世の中が不条理なことを忘れてた。