第22章 愛ゆえの我儘
暗部時代によく行っていた定食屋さんで、よく座っていた奥の窓際のカウンター席に座り、それぞれ注文をする。
「なんか不思議だな。
テンゾウは大人になって、わたしはお腹に赤ちゃんがいて。
なのに、ここに来ると暗部にいたのが昨日のことみたい……」
「そうですか?
僕はカカシさんの代理になってからもよくここに来てるので、そんな感慨はないですね」
暗部から正規部隊になったとはいえ、第一線で戦うヤマトは大した変化もないのかもしれない。
遠くまできちゃったと感じるのはわたしだけなのかとふと寂しく感じてしまい、自分で選んだ道じゃないかと慌てて思い直す。
今まで必死にやってきたことに少しも後悔はないのに、今はカカシと一緒に戦うことができるヤマトのことが心底羨ましい。
「……カカシ先輩と、なにかあったんですか?」
しばらく取り留めのない話をしていたが、ほとんど食べ終わった頃、ヤマトが唐突に切り出した。
「なん、で……?」
わたしが言葉に詰まってしまったのを見て、ヤマトが慌てて手を振る。
「あ、すみません。
話したくないことなら、言わなくて……。
ただ、先輩が火影室に駆け込んで行くのを、見たので……」
「……里に残りたいって言ったら、一蹴されちゃった」
笑ってなんてことないってふうに言いたかったのに、失敗して目尻から一粒涙がこぼれ落ちてしまう。
一度出てしまうと、我慢していた涙は後から後から溢れてくる。
「あ……っ、ごめ……っ」
「僕だったら、こんなに泣かせないのに……」
「……え?」
ぽそっと呟かれた言葉にヤマトを見上げると、ヤマトの親指が目尻の涙をそっと拭った。
「ヤマ…ト……?」
切なさを含んだヤマトの大きな黒目や、カカシより太い、カサカサの親指の腹のあたたかさに、なぜかドキリとしてしまう。
そのとき、わたしに触れていたヤマトの手が後ろから誰かに掴まれ離れる。