第22章 愛ゆえの我儘
突き放されたショックで、わたしはフラフラと後ずさり、火影室から駆け出した。
でもすぐにお腹が張って痛くなり、階段にうずくまる。
わかってる、わかってるよ。
こんな体じゃ戦えないこと、足手まといだってことも……。
でも怖い。
里を、仲間を、カカシを失うことが……。
何もできない自分が、嫌だ……。
膝を抱えてあふれてきそうになる涙をこらえる。
そのとき「サクさん、ですよね。大丈夫ですか?」と聞き覚えのない声が聞こえて顔を上げる。
短く切られた茶色の髪。
黒目がちな双眸。
そして何より頬まで覆われた、独特の額当て。
「もしかして、テンゾウ……?」
「はい。
あ、今はヤマトって名乗ってるんですけど。
お久しぶりです。
大丈夫ですか?
体調が悪いとか……」
久しぶりにあったテンゾウはすっかり大人の男になっていて、ビックリしすぎて溢れ出しそうだった涙がすっかり引っ込んでしまう。
「テンゾウ、久しぶり。
大きくなったね」
「もう大きくなったって言われるような年齢じゃないですけどね」
少し困ったように、でも、体が平気そうなわたしに安堵したテンゾウが、変わらない、控えめな笑顔を見せてくれる。
その笑顔に「ありがとう、もう大丈夫」と笑顔を返したとき、わたしの横を2人の若い忍びが駆けていった。
階段に座り込んでいたわたしは、かなり邪魔だったろう。
手すりに捕まり立ち上がろうとしたわたしを、テンゾウが支えてくれる。
「歩けますか?」
気遣ってくれる手がすごく大きくて、時間の流れを感じずにはいられない。
なのに、テンゾウと喋っていると暗部にいたころに戻ったような錯覚に囚われる。
「お腹が痛かったんだけど、もう大丈夫。
ありがと」
「そこにベンチがあるから座りますか?」
「うん。
テンゾウは、じゃない。
ヤマトは今から仕事?」
「いえ、終わったから今からどこかでメシでも食って帰ろうかと……」
「一緒に行ってもいい?
ひとりで食べたくない気分だから……」
さっきのカカシに押された肩にはまだ手の感触が残っていた。
無性にひとりになりたくなくて、気がつけばそう言っていた。
「はい、もちろん」
何かを察したように、何も言わずにテンゾウがくいっと厚めの唇の端を上げる。