第22章 愛ゆえの我儘
「ビックリしたね。
綱手様に連れて行かれたときは、悪い病気かと思ってドキドキしちゃったけど、まさかお腹に赤ちゃんがいるなんて……」
「うん……」
やんわりと指を絡めあって、家へと続く道をゆっくりと歩く。
沈みかけの夕日が、わたしたちの影を長く伸ばしている。
まだどこかフワフワとして現実味がなくて、そっとお腹を撫でてみる。
太ったように感じていたのは、赤ちゃんができたときの体の変化だったらしい。
元気に育ってくれて、ありがとう
そんな想いが湧いてきて、何だか自分がお母さんになるのだと、くすぐったい気分になる。
ふとカカシを見上げる。
元々口数が多い方ではないが、今日はさらに無口でどこかうわの空だ。
今まで2人で子供について話したことはなかった。
カカシがもし、子どもなんていらないと思っていたらどうしよう。
一抹の不安を感じ見つめると、視線に気づきカカシが真っ直ぐにわたしを見た。
「サク……」
カカシはわたしの名を呟くと急に立ち止まり、ぎゅっとわたしを抱きしめた。
「わ、カカシ??」
誰に会うかわからない道端で、カカシがこんなことをすることは普段ほぼない。
どうしたのかと、左手で胸板に押し付けられていた頭をそっとあげると、いつもの深いグレーの瞳と目があった。
「嬉しい……」
小さな、絞り出すような呟きだった。
でも、はっきりと届いたその言葉は、わたしの胸と目頭を熱くさせた。
「オレたちの子ども。
大切に育てよう……」
「うん」
流れ星みたいに突然降ってきた幸せに、わたしたちは戸惑いつつも、喜びを感じていた。
家に帰ってからも、カカシはわたしのお腹を撫でたり、耳を当てたりした。
はじめての子どもだし、お互い本来なら教えてくれるお母さんはもういない。
本屋により買ってきた育児書を2人で読んだ。
「もうすぐ胎動を感じるんだって!
お腹を蹴ったりするらしいよ!」
「すごい……。
オレも感じてみたい」
「最初はポコってなる程度だけど、大きくなってきたら、お腹の形が変わるくらい蹴るんだって。
そしたらきっとカカシにもわかるよね!」
「うん」
話は尽きなくて、わたしたちは男の子と女の子どっちがいいかだとか、髪の色や目の色を想像したりして、遠足の前日のようなワクワクした気持ちを抱えながらその夜を過ごした。