第16章 サスケ
ある日曜の昼前、わたしは買い物をすべく市場を目指していた。
市場の手前にある川を通り過ぎようとした時、桟橋に黒い影を見つける。
あ、あの子は…。
さんかく座りした膝に顔を埋めて、川面を睨んだ黒髪の少年には見覚えがあった。
イタチの弟のうちはサスケ。
年齢にそぐわない寂しげな横顔に胸が痛む。
一瞬にして父も母も、一族も失った。
しかも、兄の手によって…。
2人がどんな関係だったかは知らないけど、普段から隙のないイタチが、弟の話をするときはどこか穏やかな表情を見せていたのが、鮮明に記憶に残っている。
きっと仲のいい兄弟だったのだろう。
胸が痛い…。
声をかけることもできずに見つめていると、近くにあった時計が正午を告げる鐘を鳴らした。
しかしサスケはその場から微動だにしない。
ちゃんと食べてるのかな…。
あ…。
そこでわたしはある事を思いつき市場へと駆けた。
よく買う肉まん屋さんで蒸かしたての大きな肉まんとお茶を2つずつ買って急いで川に戻る。
よかった、まだいる。
体制も変えず座り込んだサスケに近づき声をかける。
「こんにちは。」
少年はゆっくりと振り返りわたしを訝しげに見上げる。
「アンタ、誰?」
「わたしはイタチの元同僚のサクです。
サスケくん、だよね。」
イタチと言った瞬間にサスケくんの小さな体から殺気がほとばしる。
常に前線で戦っている忍だから平静を装って受け流せるけど、普通の人なら尻餅くらいはついているかもしれない。
まだ年端もいかない子供にはとてもそぐわない殺気だ。
でも、人を殺したことがない者が放つ殺気。
そのアンバランスさが、どこかサスケくんを危ういものにしていた。
「なんの用だ。」
ピリピリと苛立った声でサスケくんが言う。
「えっと。
お昼時でお腹すいちゃってご飯食べようと思うんだけど、一緒にどう、かな?」
さっき買った肉まんを袋から一つ取ってサスケくんに差し出す。
でもそれが受け取られることはなかった。
サスケくんはふい、と視線を前に戻してしまう。
「見ず知らずの怪しいやつのメシなんか食えるか。」
「別に怪しくないんだけどな…。」
ま、そうだよね。
まだ小さいのにしっかりしてるな…。
どうやったら食べてもらえるか考えあぐねていると、ふいにサスケくんからぐー…、と間の抜けた音が聞こえた。
