第4章 夕虹
待ち合わせは、このへんで一番大きな大型商業施設に入ってるシネコン。
楽しみにするあまり、大野さんと打ち合わせた時間より30分もはやく着いてしまった。
俺はそわそわしながら、窓ガラスにうつる自分の姿をみては、おかしくないかチェックする。
今日は自分の持ってる中で、今一番気に入ってる服を着て来た。
黒のアンクルパンツと白の大きな半袖のパーカー。
この春先に、店員さんの絶大な勧めでワンセット買ってしまったおニューだ。
……なんかデートみたいだな。
自分の発想に、笑いがこみあげる。
大野さんはどんな格好でくるのだろう。
以前、繁華街でみかけたときは、驚きの方が勝って、彼がどんな洋服を着ていたのかなんて、記憶にはない。
童顔だから、可愛らしい格好だろうか。
パーカーかぶったらどうしよう。
いや、それもペアルックみたいでいいかもな。
ニヤニヤするのをおさえきれないまま、俺は腕時計に目をおとし時間を確認した。
時間五分前。
そろそろくるかな。
走ってくるかな。
それとも、悠然と歩いてくるかな。
ドキドキしながら人混みを見渡す。
ところがそこから10分待っても、15分待っても大野さんは現れなかった。
……寝坊したのかな?
少し迷って、スマホを鳴らした。
すると、機械的な女性の声で、電源が入ってないと伝えられる。
…………?
LINEにメッセージを何度かいれてみたが、既読がつかない。
俺は、どんどん心配になってきた。
…………なんかあったのかな。
事故とか……
スマホをスクロールしてこのへんに何か事故や事件がないか探す。
その間、俺と同じように待ち合わせをしていた人々は、次々と相手と落ち合って、映画館の中に消えて行く。
…………どうしたんだろう……?
不安と焦りで動悸がする。
大野さんの自宅を知らない俺には、スマホが唯一の連絡手段だから、待つ以外どうしようもなくて。
俺は、迷子になった子供のように、その場にずっとずっと突っ立っていた。
その日、何十分待っても、何時間待っても、大野さんは現れなかった。