第4章 夕虹
Jun
あの図書室の日から、大野さんとの距離は、急速に近くなった。
あの日、自販機のミックスジュースを飲みながら、下校時刻まで二人でいろんな話をした。
大野さんの好物がタコの刺身だ、とか、絵を描くのが好きだ、とか、俺は洋楽が好きだなどのお互いのパーソナルな話題から、ここの学校の名物センセの話題や、学食のカレーうどんの話まで。
くだらない話を、笑い転げながら、いつまでもしてた。
朝バス停から、学校まで歩く間もそれなりに話はするけれど、それ以上に濃密な時間を過ごせたと思う。
そして分かったのは、大野さんといると、俺はとてもリラックスできて楽しいということ。
兄貴のことで、少なからずへこんでいた気持ちは、いつしか楽しい気持ちにかわっていて……大野さんが塗り替えてくれたんだな、と思った。
「あのさ、期末テスト金曜日に終わるじゃん。次の次の日の日曜日、観たい映画があるんだけど一緒にいかない?」
今日も、しとしとふる雨のなか、傘をさしながら登校する道すがら、俺は提案してみる。
大野さんは驚いたように顔をあげた。
「……俺と?」
「……うん(笑)、というか、俺は大野さんを誘ってんだけど」
「…………」
大野さんはちょっとうつむいて黙った。
あれ、嫌なのかな?と、ちょっと心配になりながら辛抱強く返事を待つ。
やがて、大野さんは、嬉しそうに俺を見上げた。
「誰かと映画なんて……俺、初めて」
「……そうなんだ?」
「うん」
「じゃあ俺が初めてのオトコだな」
「なんか、やらしいな(笑)」
大野さんが肩をゆらして笑った。
まだ返事を聞けてない俺は、彼をうかがいみる。
嫌そうでは……ないかな?
「…で?…行くの?行かないの?」
すると、大野さんは、ふわりと笑って頷いた。
「……行くよ。そのかわり恋愛映画はやだよ?」
「了解」
まるで、恋人みたいな会話だな、と思いながら俺は、大野さんと出かけられることを嬉しく思った。