第4章 夕虹
「…………え……」
松本が驚いたように目を見開いた。
俺は、咄嗟につかんだ松本の手を、あわてて離した。
「……大野さん?」
「ごめん、なんでもない」
松本が泣きそうにみえて。
思わず、泣くなよって言いたくなった言葉を飲み込んだら、手を握ってた。
「……大野さんも良かったら読んでみて。おすすめだよ」
にこっと微笑む松本に、曖昧にうなずいた。
頷きながら……俺は自分自身の変化に戸惑ってた。
松本の前だと、いろいろ俺らしくなくなる。
まず、朝に会うのが楽しみな人がいるという時点で、いつもの俺にはあり得ない。
彼の表情の変化に敏感になり、こんな……咄嗟のこととはいえ、手を握ってしまうとか、ほんとに我ながらどうしちゃったんだろうと思う。
「大野さん」
「……ん?」
「でよっか」
「え?なんで……」
松本が立ち上がった。
俺はびっくりして、慌てて松本を見上げた。
もう帰るの?
俺が手を握るなんて気持ち悪いことしたからかな、と、焦ってると、
「勉強教えてもらうつもりだったけど……やっぱり大野さんと喋りたい。売店前行かない?」
売店前には、ちょっとした椅子や机が設置されてる。
「……うん。いいよ」
ほっとして頷いた。
俺は、松本と過ごすことを間違いなく楽しみにしていて……かつ、喜びとしてる。