第4章 夕虹
「……なに読んでたの」
なんだかそわそわしてしまう自分を誤魔化すように、
松本の手元の本に目をやる。
「これ?」
ハードカバーのそれはものすごく分厚くて、俺は一生読みそうにない類にみえる。
松本は古めかしい表紙をさらりと撫でた。
「デュマの三銃士。知ってる?」
「……聞いたことあるような。ないような……」
うそ。きいたこともない。
でも知らないとは言えなくて、俺は言葉を濁して首を傾げてみせた。
松本は、ふふ……と、笑って、本をパラパラめくる。
「……俺、こうみえて昔は引っ込み思案だったから。こんな破天荒な主人公に憧れててさ。大好きな話でずっと読んでた。久しぶりにここで見つけたから、思わず読み直してたんだ……」
松本の意外な言葉に、俺は目を丸くして松本の顔を見上げた。
「……引っ込み思案?……そういう風にみえないね」
「……俺……兄貴がいないとなんにもできない子だったから」
松本は、ちょっと自嘲気味に肩をすくめた。
「……そうなんだ」
俺の脳裏を、コンビニで出会った色白の優男がよぎる。
俺を、不躾な目でみてきたあいつ。
……俺は、多分あの兄貴は苦手だ。
でも、きっと松本はあの兄貴が大好きなのだろう。
すごい、仲良かったし。
全身で兄が好きだオーラが出ていたし。
だけど……なぜだろう。
今の松本は辛そうに笑う。
ふと、彼の瞳が潤んでるようにみえて、驚いた俺は、思わず彼の手を握ってた。