第4章 夕虹
「もう智も高3かぁ……」
「そうだよ。あとちょっとで18だよ」
「早いね。出会った頃はまだ義務教育だったのに」
そういって、コクリとカフェオレを飲む雅紀さんは、相変わらず細くてきれいで……儚い。
袖をおったシャツからみえる腕は白く、俺が言うのもなんだけど、ちゃんと食べてるのかな、と、心配になる。
そんな俺の心の内を知らない雅紀さんは、マグカップを弄びながら、ぽつりと言った。
「智は……卒業したらどうするの」
「就職するよ。俺、勉強嫌いだし」
「……大学行きたかったら、行きなよ?授業料が気になるなら、出世払いでいいから俺が出し……」
「言ってるじゃん。勉強なんて高校生まででお腹一杯だよ」
俺は、雅紀さんの言葉を遮った。
この人は……俺のことをほんとに考えてくれる。
それは、もう申し訳ないほどに。
父ちゃんの影を重ねてるといっても、ここまでしなくていいよって思うのだ。
だからこそ。
早く自立しなくちゃと思う。
自分でお金を稼いで生きていけるように。
今は家賃も生活費も雅紀さんに援助してもらってるけど、いつか、何らかの形で返そうと思ってる。
だから、俺はバイトを始めたんだ。
ニノには言ってないけど、高額収入の話を聞いて、裏のバイトも始めたのも、そういうことだ。
そんな理由だとは思ってない雅紀さんは、俺のバイトを聞いてすごく怒って、悲しんだ。
そんなことしないでいいって何度も説得された。
……表向きは自由になる金が欲しいってことにしてたものね。
雅紀さんに返すための金だなんて言ったら、無理矢理辞めさせられるだろうと思ってついた嘘だった。