第4章 夕虹
もう自分のなかでは、兄貴への想いはケリがついたと思っていた。
兄貴が、彼女と出かけようが、この先結婚しようが、俺は兄貴の弟なのだから、関係はないと。
自分は、ただの肉親だと。
勘違いするなといいきかせ、それは自分で受け入れられたと、思ってた。
そもそもがゴールのない想いを勝手に抱いていただけの話だ。
なのに……
俺は、自分の部屋の扉を閉めたとたん、その場にうずくまった。
なんでなんだろ………。
兄貴に見られないように、と、懸命にこらえていた涙が……落ちる。
まばたきをするたびに、ぽたり、ぽたりと落ちる。
最初から許されなかった想いであったことを突きつけられたからか。
男なんかに、と、かつての自分の想いを否定されたからか。
それとも、兄貴が、大野さんにあまりよい印象を持たなかったのがショックだったのか。
……よくわからない。
わからないけど、静かに自分でしまいこんでいた想いが、今度こそ粉々に叩き割られたことは確かだった。
俺は、久しぶりに兄貴を想って泣いた。
泣いて、泣いて。
ふと胸のなかに浮かんだのは、大野さんの優しい笑顔。
あのふんわりした笑顔にすごく会いたくなった。