第4章 夕虹
「う……ん……そうかも」
それは……俺があえて目をそらしていた部分。
あの日、あんな場所でうつむき加減に歩いていた大野さんの姿と。
朝、バスでであったときにふわりと笑いかけてくれる大野さんの姿が、どうしても重ならなくて。
大野さんと二人で話せば話すほど、分かってくる彼のピュアな優しい人物像に、もはや、真実を問いただすことも憚られた。
今時、夜遊びなんか珍しくもないが、大野さんを発見した場所が場所だけに、仮に、俺に見られたくなかった姿だとしたら、聞いちゃいけない気がして。
人間、誰でも秘密にしたいことはあるんじゃないか。
そう思ったら、もう見なかったことにするより他はなかった。
真実を知って何になる?という思いもあったし。
俺の反応で、兄貴は察したみたいだ。
兄貴は、ふぅとため息をひとつ吐いて、ゴミ箱に缶を投げ入れた。
カンっと間抜けな音がした。
「……まぁ。別におまえが気にしないのならいいけれど。兄としては染まってほしくないから気を付けろ、と言っておくよ」
「……染まる……?」
「あのへんは女遊びも男遊びもできる」
「…………」
「女はともかく、おまえが男に狙われたら、と思うと俺は気が気じゃない」
どういう……意味……?
聞くに聞けず黙ってると、兄貴は、ふっと肩をすくめた。
「それで、男を知ってほしくない」
「………っ…」
胸を抉られた気がした。