第4章 夕虹
Jun
キッチンで水を飲んでると、風呂上がりの兄貴が、ビールくれビール、と、ゾンビのように入ってきた。
俺が冷蔵庫をあけてやると、当然のように一番上の段から銀色の缶を手にするから、
「……発泡酒も飲んでねって母さん言ってたよ」
と、からかうと、
「……今度な」
と、いたずらっぽく笑って、兄貴は素早くプルタブをひいて、冷たい缶に口をつけた。
発泡酒は兄貴はあまりお好みではない。
違いがわからず、なんで?、と聞いたら、そのうち分かる、と、言われるばかり。
ちょっと子供扱いをされる気がする瞬間だ。
俺は、ふーん……とだけ言ってコップの中身を飲み干した。
シンクにコップをおいて、時計を見上げる。
もうすぐ一時だ。
テレビを観るのには遅い時間だし、部屋に戻ろうかと
考えてると、空になった缶をぺこっと潰しながら、兄貴が、なぁ……と呟く。
「ん?」
「……あのさ、さっきコンビニであったおまえの先輩いたじゃん」
「うん」
「……どんな人?」
「どんな人って……朝にバスでよく会うってだけの人だけど……」
なんでそんなこと聞くんだろう。
俺が、きょとんとして兄貴をみると、兄貴は何かを言い淀んでいるような素振りをしてみせる。
俺が、じっと見てると、兄貴はちょっと真剣な目で俺を見据えた。
「……おまえ、俺と焼鳥食いに行った日覚えてるか」
「……?……うん……ぁ」
兄貴の言いたいことが分かった。
「お前は知り合いじゃないといったが。あの人は、あの日の夜、いわゆるそういう店の方面に歩いていた人じゃないか」