第4章 夕虹
目の前でじゃれあっている兄弟は、仲の良さがよく見てとれる。
俺は、無邪気に笑ってる松本を見つめた。
同級生の前での彼の印象はよく知らないが、年上である俺への懐へのもぐり方は、見事だった。
ピンチの俺を助けてくれた頼もしさと、俺にまとわりつく無邪気さが絶妙なバランスで……単純に、一緒にいて楽なのだ。
こうやってみてると、松本は、生粋の弟気質なのだろう、と思う。
彼といると、いつのまにか、俺も笑顔になってることが多い。
つい、心のガードが甘くなるというか。
甘え方が上手なんだろうなぁ。
…しかしどうでもいいが……今の俺はとにかく、この場から去りたかった。
男に抱かれた直後の今の自分を、あまり見ないで欲しくて。
汚れてるから。
嘘まみれだから。
そんなつもりではないが、メガネは、心理的にそんな自分を隠してる役割もあるのかもしれない。
だから、正直、素顔の自分も嫌で……。
俺は、胸が苦しくなってきて、さりげなく手近にあるチョコポッキーを手にとった。
「……じゃあ、電車くるから」
「うん。また月曜日」
と、手を振る松本。
後ろで、兄貴がぺこりと頭を下げてる。
俺も急いで頭を下げて、逃げるようにその場から離れた。