第6章 春の虹
「……めちゃくちゃ熱いですけど」
「そうかな……そうでも」
ないよ、と言いかけたら、
「あります」
キッパリと遮られた。
いつも、素直に、はい、と返事をして俺の指示をうける二宮くんが、今日はなんだかとても強い。
俺は、不思議な気持ちで、…そっか、と頷いた。
こんな風に、弱い俺に強い口調で関わってくれる人はひさしぶりだった。
昌宏さん以来だ。
「…無理しても、作業効率は落ちるだけです。今ならフロアに部長いらっしゃるので、申し出て帰ってください。届けは俺が出しておきますから」
「……でも……」
それでも立場上早く帰るのは気が引ける。
業務が終わるまであと1時間ほどなのに。
でも、そんな俺の迷いを見透かすように、二宮くんは腕時計をみて、先々に話を進めてゆく。
「日帰り出張の横山さん、もうすぐ帰社すると連絡がありました。お伝えすることは」
「いや…別にないかな」
「なら、はい。立ってください」
ゆっくり腕を引かれて、つられるように立ち上がった。
…………うわ
立ってみて気がついた。
足元がフワフワする。
俺、結構やばいな、と初めて自覚した。
「……気をつけて」
俺を見上げる二宮くんの優しい瞳に、思わずドキリとしながら、俺は、ありがと、と頷いた。