第11章 蜜月
「うわー。すごい」
すずらんが感動の声を上げる。
仲居さんが案内してくれた部屋は、本館ではなく離れにあり、一つ一つの部屋が独立した、小さな家のようになっていた。
中は広く二間つづきになっていて、奥の部屋の障子を開けると、外には小さな露天風呂までついている。
ご飯まではまだしばらくあるので、せっかくだし先に温泉に入ることにする。
「あ、でも、カカシ手が…。
痛いし、利き手が使えないと、洗いにくいよね」
本当は慣れてるし大丈夫なんだけど…。
せっかく部屋にお風呂あるし、ね。
「そだね、洗うの大変かも…。
すずらんが一緒に入って洗ってくれる?」
「え!?」
すずらんは、真っ赤になってしばらく固まっていたけど、意を決したようにひとつうなずくと、「わかった!」と真剣な顔で返事する。
「はは、戦場に行くんじゃないんだから。」
その返事の力強さがおかしくて笑ってしまう。
「だって、恥ずかしいから気合いがいるんだよ!」
「もう今更、でしょ」
「…っ……」
サラリとすずらんの髪を耳にかけ、耳元で囁くと、すずらんがまた真っ赤になり、オレを困ったような顔で見上げる。
かわいい反応を楽しむのをそこそこにして、すずらんの気が変わらないうちに、浴衣とバスタオルを持って奥の部屋に行く。
ガラリとお風呂へ続く扉を開けると、乳白色のお湯に、新婚旅行だからだろうか。
ピンク色の花びらがたくさん浮かべられていた。
「すずらん、見て」
手招きすると、すずらんもお風呂を覗きこみ、目を輝かせる。
「うわぁ。かわいい!」
「ね」
「さて、と。」
する、と上を脱いだとき、つい傷のことを忘れてしまい、痛みを感じる。
「…った…」
するとすずらんが「大丈夫?」とオレを見る。
「ん、平気。ちょっと怪我のこと忘れてふつうに脱いじゃった」
すずらんが傷がある方の手の甲をそっと撫でる。
「…わたしが、脱がしてもいい?」
恥ずかしいのか下をむきながら、すずらんがオレのアンダーをギュッと掴む。
「え…。」
想定外の言葉に一瞬つまってしまう。
するとすずらんがオレを見上げる。
妙に気恥ずかしいが、せっかくの申し出に甘える。
「ん、じゃ、お願い、しようかな」