第9章 正月
忘れていたらしく、しばらくすずらんがポカンとする。
「そっか!今日はもうお正月かぁ。
明けましておめでとう。
こちらこそ、よろしくね」
至近距離で微笑み合って、戯れるように唇を合わせる。
こんなふうに、毎日起きた時すずらんが隣にいてくれたら、どんなにいいだろう。
ただ一緒にご飯を食べたり、眠ったりできたら、どんなに幸せだろう。
そこまで考えて、結婚の二文字が頭をよぎる。
すずらんはどう思ってるんだろう。
「カカシ?」
急にぼーっとしてしまったオレを不思議そうにすずらんが見る。
「あ、ごめん。
ボーッとしてた」
と笑うと、すずらんも笑い返してくれる。
「さ、そろそろ起きないとな」
布団をまくろうとしたオレの胸に、すずらんが顔を埋めてギュッと身を寄せてくる。
「……あと10秒でいいから、こうしてて」
愛しくて胸がぎゅっとなり、すずらんを強く抱きしめる。
「大好き…」
「オレも、大好きだよ」
しばらく離れられずにいたが、空がだんだん白んできて、下からガヤガヤとみんなの起き出す音が聞こえてきて、やっと2人で布団から出る。
朝からお正月のお祝いをし、豪華なおせち料理と雑煮に舌鼓をうったあと、少しゆっくりしてから、初詣に行くため2人で家を出る。
すずらんが毎年行っているという小さな神社。
まだ朝早いからか、参拝客もまばらだ。
お賽銭を入れ、手を合わせ願い事をする。
『この幸せが、続きますように』
べただけど、そっと願う。
目を開けすずらんを見ると、まだ何か熱心に目を閉じて願い事をしている。
今日はお正月だから、すずらんは着物を着付けてもらっている。
黄緑色の鮮やかな振袖に金色の帯。
タイトにまとめた黒髪。
ツヤツヤした唇
大きな目を縁取る睫毛が、顔に影を落としている。
綺麗だな、と思う。
神社を出て、畦道を手を繋いで歩く。
「手、繋いでのんびり歩くのって、いいね。
デートみたいだね」
繋いだ手を見て、すずらんが嬉しそうに言う。
「みたいじゃなくて、デートでしょ」
「そっか!」
よく考えたら、会うのはいつも夜のちょっとした時間ばかりで、まともなデートなんてしたことがないことに今更気づく。