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きみを想う

第8章 別れ、そして…


2人が会わないまま3ヶ月がすぎていた。

相変わらずの仕事量に息つく暇もなかったが、その方がすずらんのことを思い出さなくてよかった。
ひたすら仕事に打ち込み、夜は泥のように眠った。

昔に戻っただけだ。
すずらんに出会う前に。
そう自分に言い聞かせて、胸の奥の痛みを見ないようにしていた。

そんな時、イッシンからどうしても直接頼みたいと仕事の依頼があり、屋敷に出向くことになった。

すずらんに会ってしまうかもしれないから気は進まないが、仕事だから仕様がない。

客間に通されてしばらく待っていると、庭から剣の稽古の気合いの声が聞こえてきた。
女の声も混じっているな。

……って、この声…。

そっと襖を少し開けると、縁側の向こうに竹刀を持ったすずらんがいた。
え?何ですずらんが剣の稽古?
訳が分からずただ呆然と見つめていると、イッシンが入ってきた。

「驚いたろう。
退院して体が治ってから、強くなりたいと言って聞かなくてな。
師範をつけて剣の稽古をしてるんだ」

「なんでまた……」

「一度言い出すと聞かんからな。
気が済むまでやらせている。」

「そう、ですか……」

しばらく2人して稽古を眺める。

「すずらんと別れたそうだな…」

目線をすずらんに向けたまま、イッシンが静かな声で言う。

「はい…」

謝るべきなのか逡巡していると、イッシンがまた口を開く。

「正直、少し安心した。
今回のこと、親としてはかなり肝を冷やしたからな。」

「……お嬢さんを危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした」

頭を下げると、イッシンがふ、と笑う。

「頭を上げてくれ。
火影殿が悪いわけではないのは分かっている。
だが、火影殿と付き合っている限り、こういうことはついて回るのだろうとも思っている。
どうしても親として、子の安全を願ってしまうんだよ」

「大名様の言葉はもっともだと思います……」

ズキズキと心が痛む。
下を向いて、ぐっと歯を食いしばる。


「でも、君はそれでいいのか?」

「え?」

思いがけない言葉に、真意を探るようにイッシンを見る。

「ワシの妻は病気がちでな。
すずらんが小さい頃に死んでしまったんだ。」
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