第5章 樹上の逢瀬
こういうとき察してくれるシカマルは助かる。
ナルトやサクラなら、興味本位で根掘り葉掘り聞いてくるだろうから。
ま、のらりくらりかわして言わないけどね。
花火大会の時のすずらんを思い出す。
いつもは下ろしている艶やかな黒髪を結い上げた白いうなじ。
オレの一言で紅潮する頬。
どこに触れても柔らかな身体。
花みたいないい匂い。
ツヤツヤした柔らかな唇からこぼれる、オレを呼ぶ可愛い声。
……会いたい。
次はいつ会えるだろうか。
口布の中で微かなため息をこぼし、止まってしまっていた手を再び動かす。
夜、相変わらず終わらない仕事に区切りをつけて伸びをする。
時間は11時を少し回った所。
ふう、とため息をつき、鍵を閉めて部屋を出る。
やっぱり、会いたい。
寝ててもいいから一目だけでも顔を見てから帰ろうと、すずらんの家へと暗い森を進む。
寝静まって真っ暗な屋敷に、一部屋だけ明かりがついている。
その窓からよく知る顔が空を見上げていた。
ストっと窓の柵に降りたつ。
「っ火影様!?」
目をまん丸にしてすずらんがビックリしている。
聞きたかった声に胸が熱くなる。
「火影様じゃなくてカカシでしょ」
フ、と笑うと、「そうでした」と、照れたようにすずらんが笑う。
どうぞ入って下さい、と言うすずらんに、中を覗くと案の定部屋には布団が一組。
すずらんは下ろした、まだ少し濡れた髪に寝巻きの浴衣一枚の無防備な姿。
いやいや、ダメでしょ。
襲わないでいられる自信がまったくない。
でも、もう少し傍にいたくて、少し散歩しない?と誘ってみる。
「え?」と言うすずらんを窓から引っ張り抱き上げると、窓を閉めて屋敷を離れる。
森に分け入り適当な大きな木の枝に降りたつ。
いきなりのことに、すずらんはただただオレにしがみついている。
枝の上にすずらんを下ろすと、何も言わずに抱きしめる。
「カカ…シ?」
躊躇いがちに、すずらんの腕がオレの背中に回される。
「会いたかった。
今日一日、ずっとすずらんのことが頭から離れなかった……」
ギュッと抱きしめながら言うと、
「わたしもだよ。
ずっとカカシのこと、考えてた。」