第3章 風邪
キッチンでなぜか三角座りをしていたすずらんが「はっはい!」と立ち上がる。
「あの、じゃあもうすぐ出来上がるので、次こそベットで寝て待っていてください!」
「わかりました。
すごくスッキリしました。
タオルありがとうございました」
「はい」
すずらんが、ニコリと笑う。
部屋は鼻が詰まっていてもわかるくらい、美味しそうな出汁のにおいが漂っている。
ベットまで行き、布団に潜り込む。
うつらうつらしていると、お盆に鍋とお茶碗を乗せたすずらんがやってきた。
テーブルが遠いため、床にお盆を置いて、すずらんがオレを覗き込む。
「火影様、お粥、できました。
食べられそうですか?」
「はい。ありがとうございます」
ベッドに背を預けて起き上がる。
すずらんがお鍋からお茶碗にお粥をよそってくれる。
「いただきます」
茶碗を受け取りふーっと少し冷ましてからスプーンで一口食べる。
「ん、おいしい」
優しいほっとするうす味で、熱のせいかあまり食欲がなかったがどんどん食べられる。
「本当ですか?ふふ、よかったです。
お茶も入れてきますね」
嬉しそうにもう一度キッチンに向かうすずらんを見送り、茶碗の中身を平らげる。
もう一杯おかわりして、綱手様の薬を飲んでベッドに沈み込む。
すずらんは、食べ終わった食器を片付けてくれている。
ジャー、と水を流す音が、聞こえる。
風邪の時に誰かがいてくれるなんて、幼いとき以来かもしれない。
こんなに安心できるものなんだな。
満腹になったせいもあり、まぶたが重くなってくる。
結婚したら、こんな感じなのかな……。
そんなことを考えながら、オレはいつの間にか意識を手放していた。
久しぶりに夢を見た。
リンと、オビトの夢……。
2人がいなくなってしまう。
嫌だ!!行くな!!行くな!!!
バッと起き上がる。
体中に、嫌な汗をかいていた。
ハー、ハー、と自分の荒い息がうるさい。
熱のせいだろうか。
最近は見なくなっていたのに……。
水が飲みたくてベッドを出て行こうとすると、ベッドに頭を預けて眠るすずらんが目に入る。
体の横には水の入った桶。
ずっと付き添ってくれていたのか。
さっきまでのささくれ立った気持ちがほぐれていくのを感じる。