第3章 風邪
薄暗くなった部屋。
起こさないようにその肩にそっと毛布をかけると、すずらんの長い睫毛が震え、ゆっくりとまぶたが開かれる。
「ん……」
しばらく寝ぼけ眼でぼーっとしていたが、我に返りハッとオレを見る。
「すいません!わたしが寝てしまって……。
体どうですか??」
「うん、大分良くなりました。
ありがとうございます」
「それはよかったです!」
満面の笑顔で答えるすずらんが可愛すぎて、抱きしめたくなるのを懸命に堪える。
「……また汗をかいてしまったのでシャワー浴びてきます」
「はい」と返事をするすずらんを部屋に残して、着替えを持ってそそくさと風呂場に向かう。
熱いシャワーを頭から一気に浴びる。
ヤバイ。オレ、今何しようとした?
冷静になれ。
目をぎゅっと瞑り、ひたすらシャワーを浴び続けた。
タオルで頭を拭きながら風呂場から出ると、部屋に電気が灯され、すずらんがまたキッチンに立っていた。
「お帰りなさい。
あの、夕飯作ってるんで、またお粥ですけど食べてください」
「夕飯まで…。すみません。
でももう外も暗くなってきたし、家の人が心配しませんか」
「これを作ったら帰ります。
迎えを頼んであるので大丈夫です」
「そうですか。
じゃあ、お言葉に甘えていいですか」
「はい。ぜひ」
寂しいような、ホッとしたような、複雑な気持ちになりながら床に座り、髪をタオルでガシガシと拭く。
お粥を食べ終わり薬も飲んでお茶で一服していると、迎えの馬車が到着した。
「今日は、ありがとうございました。
あなたのおかげで、明日は出勤できそうです」
「え!?もう一日くらい休まれては?」
「いえ、仕事が溜まっていますし、部下や綱手様に、これ以上迷惑はかけられませんから」
ニコリと笑顔を作るが、困った顔ですずらんがオレを見上げる。
そして、小さな温かい手を、オレのおでこにあてる。
ビックリして、思わず一歩あとずさる。
するとすずらんも手をさっとひっこめる。
「あっ!すみません。熱を……。
下がってますね。
汗をたくさんかいたのが良かったんでしょうか。
でも、薬の影響もあると思いますから、無理しないでくださいね」
「はい。
今日はすごく助かりました。
このお礼はまたいつかさせてください。」