第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
何故、命令を聞いてすぐに返答できなかったのかはわからない。
何故、異様に喉が渇き、口内に溜まっていた唾液を無意識に飲み込んだのかはわからない。
何故、こんなにも動揺しているのかはわからない。
全てが"わからない"ままだったが、兎に角任務を伝えられたからには遂行するのみ。
「任務了解。指定された座標へ移動します」
端末に送られてきた場所はここからそう遠くはなかった。走れば3分23秒後には到着している。
だが、四方八方を囲うように配置された弊害を片付けていれば5分10秒はかかる計算に変わる。そうなればどうなる。任務は失敗。ロドスの損失は多大なるものになるだろう。
「…」
そう思った矢先、目の前に立ちふさがった盾持ちの兵士に思わず足を止めてしまった。
即座に排除するために、引き金に手をかけた時だった。
「ぐ、あっ…!?」
「!」
それよりも前に、目の前の兵士の体が崩れ落ちていくのを見る。
弾道を計算した上でその方角を見上げると、金色の目が見えた。
その目から視線を前へと移し、再び地面を蹴る。
「11時の方向です」
「<了解。……沈黙しました>」
支援を受けながらも天災で崩れた市街地をひた走る。そこは迷路になっていて、道は瓦礫で入り組んでいる。
送られたルートをゆっくりと鮮明に思い出しながら一歩でも前へ。足を着実に一歩前へと差し出した。
座標点であるコンテナが見えて来た。ここからでも銃撃を受けていることが分かる。
強引でも近付けば体のどこがが根こそぎ持っていかれるほどの弾数に一時物陰へ隠れた。
「<12時の建物。誰か向かっていますか?>」
「<もうすぐ屋上。10秒待て>」
「現状把握。わかりました。10秒後、突撃します」
「<支援します>」
正確に数えてその時を待つ。
4、3、2、1―――
「<今!!>」
飛び出した。ほんの数メートル走って視界の中に入れればこの動揺も収まるだろうか。
妙に気の抜けるあの空気がまた流れるのだろうか。
既に空いている扉とは反対側の、硬く閉じられた扉に手をかけ、力任せに開いた。
すると、目の前に突き付けられたのは鋭い刃先だった。