第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
コンコンコン、といつもの3回ノックで執務室の扉を叩く。すぐにドクターの声が中から聞こえた。
「失礼します、ドクター」
「あぁさくら…と、イグゼキュター。おはよう。よく眠れたか?」
「それはもう大いに…」
「そんな皮肉めいた顔で言うな、さくら。面白い顔だ」
相変わらずドクターは楽しそうな笑みを見せている。だが、その笑い声をすぐに止め、こちらに歩いて来た。その足取りは少し千鳥足だ。
「さて、何で来たのか粗方察しているよ。イグゼキュターに退いて欲しいんだろう?」
「話が早くて助かります。自分を犠牲にする人に守ってもらいたくなんかないですので」
「ほう?…だそうだ、イグゼキュター。これで任務完了とする。それでいいな?」
ドクターは再度ヘラヘラと笑いながら言った。そうすれば後はイグゼキュターが頷いて、背中を向けて、部屋を出ていくだけ。
―――それだけだと思っていたのに。
「いえ、この任務。続行を要求します」
「はっ?」
ドクターの口から素っ頓狂な声が出た。
振り返って私も彼の顔を確認するが、いつもの無表情がドクターに向けられているだけで、特に感情の発露はない。
「い、いや。もういいんだぞ?私が揶揄っただけなんだ。ロドスには防衛システムや侵入者防止のセキュリティだってある。彼女が危険に晒されることなんて無いに等しいじゃないか」
「しかし一度誘拐事件があったと報告書にはありました」
確かに、この世界に来てあまり経っていない頃にレユニオンに攫われたことがある。それは源石術を暴走させてしまった私の隙をついての犯行だった。
「また、さくらの自己防衛に対する意識の低さや、ご自身の能力が世界にどう影響するのかをあまり理解されていないのも問題です。放っておけば二次被害もありえます」
「い、いやでもイグゼキュター…わかっているのか?どうするつもりだ?これからずっと、彼女を守って生きていくつもりか?それはお前の行動を著しく縛ってしまうことになるぞ」
「わ、私も困ります!これから意識していけばいいんですよね?だったら貴方が負担を被る必要はないんですよ!?」
そう告げれば、水色の目は瞬きと共にこちらを向いた。