第41章 進学
この神がかった王子様こと牛垣武明くんは、髪を撫でられた俺が慌てて身を引くと、ニヤッと上品に笑う。
口調はかなり砕けているが動作に品がある。
他の子より大人びているようにも見える。
貴族とか、御曹司かもしれない。
「前の中学は?」
「群馬の…」
「へえー!地方か。俺は東京の郊外なんだけど、トトロ知ってる?」
「ジブリの?」
「そう!生まれも育ちも東村山なんだ。ジブリ映画はなにが一番好き?俺は、トトロの森で生まれ育ったけどもののけ姫が一番好き」
「いいよねっ、もののけ姫。俺も好きだよ」
「サンも可愛いけど、やっぱりアシタカが格好良いよなー」
「うん。あの矢をキャッチするシーンとか」
「あれはチート。中二病だけどやってみたいよな!ヤックルに乗って弓矢を引く真似をして、いっとき親に頼んで教室通ったこともある」
「すごっ、弓道やってたの?」
「ああ。けど小学生じゃ骨格が出来上がってないからってゴム弓しか触らしてくれなかった。大人になったらまた来ますって言っていじけてやめたけど」
「へえー、剣道や柔道は小学生でも出来るのに全然知らなかった。高校生からは出来るんだよね?」
「そう。だから出戻りも考えてる。作法も何となくだけど覚えてるし」
牛垣くんが前の席でよかった。
どこかの御曹司かと思ったが、ジブリ好きは好感が持てる。
それにすごく話しやすい。
自然と笑い声をあげている自分がいる。
前後の席だから仲良くしてくれようとしている。
牛垣くんと話せて、無駄に緊張していた肩の荷も自然に降りてきた。
これならやって行ける。
このクラスなら、不登校にならずやって行けそうな気がする。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴ると男の担任教員が入ってきた。
40歳前半で現代社会の担当だという。
「それじゃあ出席番号順で廊下に並んで。男子は右手側、女子は左手側なー」
ゾロゾロと廊下に出るクラスメイトたち。
席を立ち、後ろから見上げるとなお高い。
キチンと制服を着ていて、引き締まっていそうな体つき。
180、もしくは170後半ありそうだ。