第35章 美容院
「おまかせ」という選択肢はなく
施行前にカウンセリングを受けることになり、
カタログの写真をみながら
具体的なイメージを膨らませ共有していく。
ライフスタイルにあわせたり、
刈り上げはどうするのか、
スタイリング方法や
来院頻度のことなど細かく聞かれる。
「全体的にあまり短くはしたくなくて
セットも自信がなくて……ぅわっ」
「額は狭くも広くもないんだな」
「アキ~。
角くん驚いてるじゃん」
「不器用だとしても覚えはいい。
コツさえ掴めばセットなんて簡単だぞ」
そんな事を言う主任は
後ろから額にかかっている前髪を上げてきた。
キャップを脱いだらしく
若々しくて
ラフなヘアスタイル。
すごい角度から
牛垣主任を眺めている。
下から覗いても美男子。
けどこの屈託なく笑う感じが
主任の素の姿なんじゃないかと思った。
親友の前だと
少年に返ったような
中高生のノリでなんだが笑えてきてしまう。
「ねえ、角くん。良かったら
ビフォーアフターのSNSあげてもいい?」
「えっ…?」
主任と少しばかり見つめ合っていたら
ユウさんがヘアカタログのモデルを
やらないかと
声を掛けてきた。
タダという言葉に惹かれはした。
主任は反対するどころか
親友の後押ししており
どう断ろうかと悩む。
「あくまで強制じゃないからね。
写真撮らないからって、
通常料金とったりしないから安心して!
あっ、よかったら
アキのモデル時代の写真みる!?
今もってくるね!」
「おい。」
親友からアキと呼ばれる主任。
秋彦という芸名は
なにから由来されたのか気になりつつ、
ユウさんは分厚いフォトアルバムを
抱えてきたのだった。