第35章 美容院
距離感が近過ぎる主任は
俺のだらしない髪型をみるなり
ボサボサにしてきて
屈託のない顔で笑う。
「この辺、最近来たか?」
「いえ……。
会社の往復と
用ある場所にしか普段出掛けないので」
「インドアって奴か。
俺は出掛けることが多いがな。
子供いるから外連れて遊びまわりたいし
嫁も羽伸ばしたいだろうし」
「あ…その、すみません。
折角の休日なのに」
「そういう俺も
家庭から解放されたい時だってあるんだ。
嫌々プライベートに誘うことなんてあり得ない。
付き合う人種くらい選んでる」
「っえ……」
それってつまり俺は…。
「角には響きづらいからズバッと言ってやる。
アイツらは優秀な人材だが
俺のことを買い被っているところがある。
それでも十分可愛い部下なんだけどな。
角はメディアに
あまり興味なさげと思ったが
まさしくそうか?」
「はい……家にテレビないですし。
仕事に必要だと思った
情報をネットニュースで
サーフィンしているくらいです」
「だと思った。
他の奴と見る目が違ってた」
そう言われてしまうと
何ともムズ痒い。
演技はすごいのに
女性問題が連日取り上げられ、
偏見に思うことはあったけど
それを深掘りしたり
踏み荒らしたりする気持ちは全然ない。
むしろ一緒に仕事をする中で
今では尊敬する人となり、
忙しいはずなのに
忙しく見せないこの人は上辺だけでなく
鹿又さんのいう通り、
本当に出来る人だと痛感した。
今は一日でも追いつきたくて
真摯に向き合いたいと思っている。