第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編
ーーー同じ頃。某所。
クゥーン、クゥーン
村正が悲しそうに啼いている。その傍らには舞。
意識はなく、目は閉じたまま。
村正はそんな舞を守るように寄り添い、舞に話しかけるように啼き続けていた。
ーーー翌朝。
春日山城内の者はほとんど眠れずに朝を迎えた。幸村、佐助、義元、謙信に至っては、一睡もできなかった。
夜明けとともに、捜索を開始する。その指揮を取るのは謙信。
「幸村、お前は部屋に籠るなり、逃げ出すなり好きにしろ。腑抜けて役に立たないお前になど舞は見つけられぬ。」
挑発するような謙信の言葉に歯を食いしばり、拳を強く握って耐える。
無言で頭だけ下げると広間を出た。
幸村は昨夜からずっと考えていた。
舞と出会ってからのこと。舞と過ごした日々のこと。そして…昨日のこと。
きっと舞は自分の『誰とでも手を繋ぐな』と言う言葉に傷付いた。口の悪い自分の優しさのかけらもない『しつけえ女だな』という言葉が、舞の心を抉った。
皆の言う通り、自分の考えが、覚悟が甘かった。舞の過去の傷を背負い、癒すことを何より優先すべきだったのに、自分がさらに傷付けた。義元の拳からは、義元の心の痛みが伝わって来るようで、自分の心もとても痛かった。舞が俺を選んだことで何人の男が心を痛めたのか…。そう考えると、ますます己が許せなかった。
その時、ふと思い出した。舞の歌った歌。
ーーいつか誰かを愛し その人を守れる強さを 自分の力に変えて行けるようにーー
そうだ。こんなところでウダウダ悩んでる暇はない。
『どんなことをしても舞を守る』。
舞が俺を好きだと言ってくれたあの時に、そう自分に誓った。舞は俺を待っている。俺が来ると、きっと信じて待っている。絶対に探し出す!探し出してこの手に抱いたら、もう二度と離さない。二度と傷付けない。
幸村の目に光が戻る。強い決意を胸に幸村は走り出した。
そして、走りながら考える。舞が連れ去られている場合、どうやって行方を突き止めれば良いかを。
「そうだ!」
なにかを思いついた幸村は、城下を抜け、森の中へと入って行った。