
第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編

ーーー数刻後。春日山城広間。
室内はしんと静まり返っている。
幸村と佐助、軒猿と三ツ者や上杉家臣たちの必死の捜索にも関わらず、舞の行方は分からなかった。
日が沈み、夜の闇が訪れてもなお、探し続けようとするところをなんとか取り押さえ、城内へと連れて来られた幸村は、自責の念からだろう。顔面は蒼白で目は虚だった。
「幸村」
義元は呼んでも反応のない幸村の側に寄り、胸倉を掴むと
ガッーー
頬を思い切り殴りつけた。
「義元さん!」
佐助が止めに入るが、構わずもう一発、拳を入れる。
「見損なったよ。こんな目に合わせるなら、指を咥えて見てるだけにしてたら良かったんだ!覚悟がないなら、最初から手を出すな!!」
今まで見たことのない、義元の激情だった。
「義元さん…」
義元の舞への想いが痛いほどに伝わって来る。
「舞にもしものことがあったら…お前を許さない!」
そう吐き捨てるように言うとビリビリと肌を刺すような怒りを身に纏ったまま、義元は広間を出て行った。
「幸村、これで頬を冷やして。明日も早い。もう部屋に戻ろう。」
佐助が濡らした手拭いを渡しながら声を掛けるが、
「……」
幸村は黙ったまま動きもしない。
「…幸村」
もう一度、声を掛けると同時に
「佐助、もう捨ておけ。」
謙信が冷たく言い放った。
「己を責める前にすべき事があることさえも分からぬような腑抜けに、何を言っても無駄だ。」
そう言って、幸村を一瞥すると謙信も広間から出て行った。
残された幸村と佐助。
長い沈黙の後、
「…舞が…俺以外のヤツと…手を繋ぐのが嫌だった」
ポツリポツリと幸村が話し出す。
「ただの嫉妬だ。舞が佐助と手を繋ぐのが面白くなくて、それを…素直に言えなくて…あんなこと…。」
「……」
「なあ、佐助。舞が無事だったら…その時は…」
「幸村!」
幸村が何を言おうとしているのか理解した佐助が強い口調で諫める。
「舞さんは、大事な人がいなくなることを一番怖がってる。幸村がいなくなったら深く傷付いて、今度こそ立ち直れないかもしれない。幸村はそれを分かってて、舞さんの手を取ったんじゃなかったのか!簡単に手離すくらいなら、義元さんの言う通り、手を差し出すべきじゃなかった!!」
「……」
「舞さんは俺の大事な友人だ。傷付けるなら、幸村でも許さない。」
静かな怒りを称え、佐助も出て行った。
