第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編
ーーー数日後。
「舞、出掛けるぞ。」
いつものように厨で手伝いをしていた舞のところへやって来た幸村がそう声を掛けた。
「幸村!佐助くんも。出掛けるってどこに?」
満面の笑みで答える舞。
「それは秘密。」
佐助にしては悪戯っぽいその物言いに
「ふふっ、きっと楽しいところだね。」
舞は笑った。
そうして三人で並んで歩く。当然のように差し出された幸村の手を取った舞が、いつかと同じように
「こっちは佐助くんと繋ぐ?」
と言うと
「舞!お前は誰とでも手つなぐの禁止!」
と幸村にばっさり切られてしまった。
「なんで?」
と聞けば
「なんでも。」
と言う。
「なんでダメなの?」
と食い下がる舞に
「しつけえ女だな。ダメなもんはダメなんだよ!」
と幸村が強く言うと
「…ごめん」
悲しそうに一言告げて、舞は駆け出した。
「ーーーっ!舞!待て!」
「舞さん!」
二人が呼び止めるが、舞は止まることなく駆けて行く。
「くそっ!」
そう吐き捨てると幸村も駆け出した。その後を佐助も慌てて付いて行く。
舞はどんどん駆けて、城門へと進んで行く。このままでは城外へ出てしまうと焦る幸村と佐助。
「舞!待て!舞!!」
何度も叫ぶが、舞は後ろを振り返る様子も止まる気配もない。
「舞さん!お願いだから止まって!」
佐助も叫ぶ。
そんな二人の必死な姿に気付いた門番も止めようとするが、それを押し退けて舞は城外へと出て行ってしまった。
小袖姿の舞は二人に比べるとずいぶん進みは遅い。ぐんぐん追い付き、舞が城門を出てすぐに二人も城門をくぐり抜けた。ーーーが
そこに舞の姿はなかった。
「舞ーー!!!」
声の限りに叫んでも返答はない。
呆然とする幸村に
「幸村!とりあえず手分けして探そう!」
そう言うと佐助は、門番に他の者にも伝えるように指示を出し、城下へ向けて走り出した。我に返った幸村も、城門を出てすぐの野原に向かって走る。
大声で何度も何度も名を呼び、舞を探して駆け回りながら、己のしたことへの後悔がとめどなく湧いてくる。『自分のくだらない嫉妬が原因で舞を危険に晒した』そう思うと、自分で自分を殺してやりたいくらい憎い。『もしも舞になにかあったら…』そう思うだけで、震えて力の入らなくなる足を幸村は必死に動かし続けた。