
第14章 時を越えて〜分岐〜幸村ver.前編

〜佐助目線〜
幸村の口癖は『女はめんどくせー』。すごくモテるのに、女性にほとんど興味を示さない。過去に恋仲になった子もいたけど、長続きせず終わった。そして、冒頭の『女はめんどくせー』。
幸村は『駆け引き』とか『言わなくても察して』とかいうのが苦手で、でも女性はそういうやり取りが好きだから、上手く行かなくて当然と言えば当然だった。
そんな幸村に本気で好きな女性ができた。舞さんだ。
舞さんに対しての幸村は初対面から今までとは違った。女性には『お前』が常で、名を呼ぶことが稀な幸村が、あっさりと『舞』と呼んだ。女性の前では口数の少ない幸村が、舞さんとは口喧嘩していた。その姿に正直驚いたけど、幸村が幸村のままでいられる女性に出会えて良かったと嬉しかった。
俺は早い段階から、幸村は舞さんを好きなんだと確信していたけど、幸村が自覚したのはずいぶん後。珍しく『相談したいことがある』と言った幸村から、『たぶん、舞が好きだ』と聞いた。幸村は『自分から好きになったことがないから、どうしていいか分からない』と話した。『幸村の思うままに行動したら良いと思う』とありきたりな返答しかできなかった俺に、『ありがとな」と幸村は笑った。
幸村と舞さんのターニングポイントはあの日。
舞さんがミニコンサートをした時だ。二人で何を話したのかは分からない。でも、あの後から舞さんの幸村を見る目が恋情に変わって行った。幸村にだけ見せる彼女の笑顔。彼女が幸村に惹かれていることに、幸村以外は全員気付いていたと思う。
皆、彼女を想う気持ちに蓋をして、辛い過去を乗り越えて彼女が幸せになることを願い、見守っていた。心に傷を負ってちょっと臆病になっていた彼女には、幸村のように真っ直ぐで誠実な男が良く似合う。飾らない二人の恋の行方を温かい気持ちで見ていた。
そんな二人がやっと今日、というか今、恋仲になった。幸村を追いかけて来たわけじゃない。義元さんと俺の居室へと向かう途中に、偶然見てしまった。
「うまくいったみたいだね。」
義元さんが穏やかな笑顔を浮かべて言う。
「そうみたいですね。」
俺の口角も上がっていた。
俺たちの存在に気付いた二人は真っ赤になって慌てて離れた。そんな二人に
「良かったね。」
と言えば
「おー」
と一言。
「俺のマキビシは守られそうで安心したよ。」
と言えば、二人は恥ずかしそうに笑った。
