第14章 親友からの電話
土曜日。
半日練習だから、いつもの1日練習よりもスタートが早い。
朝練と同じ時間から始まる。
高校までの道を歩く。
少し前に、赤いバレー部のジャージととさか頭。
私は少しだけ走って、
『おはよ。』
そう言うと同時に、肩をぽんと叩く。
「おー。はよー。」
まだ少し眠たそうな黒尾くん。
夏合宿が終わっても、まだまだ8月真っ只中。
日中は相変わらず凄く暑い。
でも、この朝の時間帯は、少しだけ過ごしやすい気温だ。
30分もすれば途端に暑くなるんだけど。
「今日も暑くなりそうだなー。」
『ふふ。そーだね。』
「まぁ今日は午前だけだしなぁ。」
『うんっ。熱中症とかも心配だから、皆はやく帰れるといいけど...』
言いかけて、いや無理だな、と思う。
午後は吹奏楽部が全体練習で体育館を使うらしくて、今日は自主練もできない日だ。
だからといって、みんなが真っ直ぐ帰る姿は想像できない。
研磨くんしか想像できない。
少なくともリエーフくんとトラくんは、絶対部活後にゲーセンとか直行だろうなぁ。
「お嬢さん、午後のご予定は? 」
『ん? 今日はね、デートだよ? 』
少し反応してくれるかな?って。
思わず匂わせるようなことを言ってしまう。
「ふーん...倉尾、彼氏いたの? 」
あれ。全然効果なし。
いやいや、当たり前か。
なんでこんなこと、急にしたくなったんだろう。
いつか、合宿で、黒尾くんが私のことを好きに見えると、聞いたせいだろうか。
それをたぶん、私も感じたくなったのかもしれない。
好きだと知ってしまったから。
『まさか! 親友とです。』
でも、普通の反応をされて、それ以上に思わせぶりを引っ張る度胸もないし性格でもない。
いつもどおり、友達としての会話にシフトチェンジ。
「親友? 」
『そー。中学の時の友達でね、美華っていうんだけど。』
「ふーん。音駒じゃねぇよな? どこの高校? 」
『戸美学園高校! 』
「戸美かぁ...。」
黒尾くん、知ってるのか。
当たり前か。バレー部だから多分色んな高校と面識あるし。
...そういえば、
『戸美学園の“大将優”くんって知ってる? 』
「えっ、」
一瞬、黒尾くんの顔が怪訝そうな表情になる。